い・い・か・お(ずっと以前がんばった人たち)

【い・い・か・お(ずっと以前がんばった人たち)】
暖かな日差しの二月中旬の午後、地区の長老に神社の由来などをお聞きするため、ちょっとお年を召したご夫妻に会いに出かけました。

【―好好爺―】
「Kさん、こんにちは!」
「……」
「何かの勧誘ではありませんよ!」
「……」
「Hさんに紹介してもらったYです!」

障子の向こう側でゴソゴソ ゴソゴソ……やっと障子が開いて、一人のご老人。二人、やや同時に、

「あっ、保育園の先生…?」
「S君たちのおじいちゃん?」

ひとしきりあいさつをすませ、本題の「神社の由来」をお聞きしようとするが、二人とも懐かしさのあまり「孫たちの話」「S君たちの保育園時代の話」から抜け出せない。
そうこうしているうちに「お茶でもどうぞ」と老婦人。

「まあ、先生!」
「アレ!おばあちゃん…」

またもや、昔話に花が咲く。
どうして本題に入れない。三人で談笑が続く。

お二人とも、とても良い顔。
孫たちの自慢話はちっともおかしくない。むしろ、ほほえましい。

【―とつとつと…―】
それでも、思い切って、

「あの、今日は萩原天満宮の由来などお聞きしたいのですが…」
「おお、そうやったねえ」

それからは、長老の一人話。私は、相づちとちょっとした質問。
老婦人は長老の側でニコニコとその横顔を眺めて「そうそう」とばかりに、うなずいている。

話の内容もさることながら、長老のとつとつと語る様はちっとも気追い込んだところもなく、ゆっくり、ゆったり。

懐かしそうに首をかしげたり、目を閉じたり、上を向いたり、本当に「いい顔」だ。

【―回顧の顔―】
話も終わり近づいた頃、長老、ちょっと顔をしかめ、

「もう、ひと昔もふた昔も前の話やねえ……」

昔がんばった人たちは、今は二世代も若い人たちに「今のがんばり」を任せている。

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